彼等三人から離れて早数分。予告通りヒソカに絡まれない様にこの先頭まで来た。来たまではいいのだ。だが、物凄く退屈である。走るスピードは上がる気配は皆無。退屈でしょうがないのが今の心情だ。やはり彼等から離れなければ良かったか。










「クラピカのあの服の模様でも思い出そうかなー」










先程見た何処かの民族的な模様。幻影旅団の洗濯物の中にあったという考えは既に無い。寧ろどこか文献等で見た可能性の方が高いと判断した。これまで情報と言う名の知識を得る為、数万冊と読んできた文献の中にあの模様があったのかもしれない。さあ、どの文献に書かれてあった?










「…………何かもう思い出すのめんどくさい」










何事も引き際が肝心よね、と呟き考える事を断念する。そして考えるのはこの退屈な、ゴールまでの時間をどう過ごすか。今からゴン達の許へ戻ってもいいが、それでは何か面白くない。別にこの試験に面白みを求めてきている訳ではないが、こうも退屈だと何かないかと思ってしまう。かと言ってヒソカの様に目立つのは御免だ。










「(…あっ、良い事考えた)」










面白く、且つ、あまり目立たずに楽しめる事。思い立ったら直行動、とは集団の先頭を少しの間を空けて易々と常人離れしたスピードで歩いている試験官の許へ向かった。










「サートツさん」


「おや、貴女は…」


「受験番号一番のです」










サトツの隣へ行き、にっこりと営業スマイル。試験には本名で申し込みをしていた筈だが、試験官だからといってそこまでは知らされてはいないだろう。イルミが良い証拠だ。彼は名前こそ本物だが顔は全くの偽者。ならば顔は同じでも名乗っている名前が違う自分もイルミと同じ様なものだろう。問題は無い筈だ。










「あの、風の噂で聞いたんですけど、サトツさんは遺跡ハンターなんですよね?」


「その通りです」


「そして…ジン=フリークスを慕っているんですよね」










面白くて、且つ、あまり目立たない行動。それは、試験官で遊ぶ事。試験官なら多少の力量を表に出しても異物を見る様な視線は送ってくるまい。念を知らない受験者達とは違うのだから。彼等についての情報は一通り試験前に調べてはいた。入り口に居たマーメンもその中の一人だ。顔写真までは入手する事は出来なかったのだが。そしてその得た情報を本人に聞かせ、何故知っているのか、という驚いた顔をさせてやりたい、というちょっとした悪戯心だったりする。だが、そんな小さな悪戯心でも退屈さを紛らわさせるには十分。今こうして自分の目の前にいるサトツの表情は微かではあるが驚きの色が出ている。










「……一体何処からその様な事が…」


「あれ、違いました?」


「いいえ。貴女の言う通りですよ。ですが、何故それを?」










その問いには、秘密です、とまた営業スマイル一つ。そしてサトツに何かを言われる隙を与えずに次の言葉を発した。










「ところで、くそジジ……じゃなくて、
ネテロ……さんは元気ですか?」










にっこりと不完全な営業スマイル一つ。さん付けをする辺りはかなり抵抗があった。が、流石にサトツの前でネテロの事を呼び捨てには出来ない。あくまでもネテロとは"ただの知り合い"なのだ。試験官でさえ《会長》と呼ぶ人物。その人物をこんな小娘が呼び捨てになど、不審な目で見られるに決まっている。それだけならまだしも、協会へ《会長と親しそうな小娘が来ている》と連絡を入れられネテロ直々に来られても困る。










「会長をご存知なんですか?」


「まぁ……ちょっと……」


「はい会長は元気ですよ」


「そうですか……(あんのくそジジイ!早くくたばれっての!!)










期待はしていなかったが、やはり健康状態に変わりはない。まあ、あのベッドの上で静かに永眠、なんていう話は有り得そうにない。どちらかというと寧ろあの翁は戦って戦死するタイプだろう。否、それよりも先ず死ななそうだ。あんな意地の悪い人間が簡単に死ぬ等という事は有り得ないだろう。










「何か残念そうですが……?」


はい…ざんね…
じゃなくて、そんなハズないですよ」










もう頬が引き攣るのはご愛嬌という事で。この話題選択は失敗だった。顔も見たくない人間の話題を出す等、自分は何て馬鹿なのだろう。










「(もうこれ以上は止めよう……)それじゃ、私はこの辺で。後ろの方に知り合いが居ますので」










もう十分に楽しんだ。ネテロの話を持ち出す前に。そろそろ彼等の許へ戻ろうじゃないか。あのジンの息子のゴンともっと話をしてみたいところだし。ゴンも父親に似て面白い事を言ってくれそうだ。よくよく考えてみれば、ゴンと話をしていれば退屈しなさそうだ。はサトツの不審の色が篭った視線を少しだけ感じながら後方集団へと紛れていった。














Ich vergebe es nicht
対立関係














先頭から後方へ。彼等三人が走っているであろう筈の辺りまで戻ってくると、あの三人の内一人だけ孤立して走っている人物が居た。近くに他の二人の気配もあるから喧嘩でもしたのか、と思い走るスピードをより遅くし、その人物に近づいた。










「クラピカ、何で一人で走ってるの?」


「いや、色々あってだな…」










言葉を濁すクラピカに首を傾げる。けれど言い難そう、というよりは説明し辛そうにしている彼を見て二人の所へ行けば解るかと思い、そっか、とだけ返した。喧嘩、ではなさそうだ。喧嘩した後の様な暗い雰囲気は無い。










こそ、何処まで行っていたのだ?」


「先頭ー」










正直に答えたのだが、何故か驚かれてしまった。そこまで驚く事だろうか。驚いたという事は自分は結構力量は下の方だと思われていたのだろうか。そうだとしたらかなり失礼だ。これでもあの有名な幻影旅団の団員なのだ。訳あって他の団員の様に蜘蛛の刺青はないが。










「……凄いな…」


「まあ、それくらいはね。ところでクラピカ」


「何だ?」


「クラピカってどっかの民族だったりする?」










一度は断念したものの、やはり気になる服の模様。これも情報屋としての性格上なのか。考えるより聞いた方が早いだろうと思い本人にそうしてみたのだが、気のせいだろうか。ほんの少しだが警戒された様な気がするのは。もしかしなくとも今聞いた事が彼にとっての禁句(タブー)だったのだろうか。人の禁句は人それぞれだ。知らず知らずのうちに相手の禁句を言ってしまう事等、人間よくある事だ。










「……何故、そう思う」


「その服の模様ね、どっかの本で見た事あると思うの。でも何の模様だったか思い出せなくて。特徴的だし、もしかしたらどっかの民族のかもって思って」










何処かの貴族の印か、あるいは古代遺跡の模様だったかもしれない。けれど一番可能性が高いのは何処かの民族の印。貴族だったり遺跡だったりした場合は、解る筈なのだ。知り得た殆どの情報は自分の頭に入っている筈。そこまで多くはなかった筈だから。昔の貴族の印にしたって、もう末代まで滅びているものが大半を占めている。自分の集めた情報なのだ。間違いはない筈。そう考えると何千何百とある民族の印だという可能性が一番高くなってくるのだ。










「………緋の眼を、知っているか?」










ドクンッと心臓が一度大きくなった気がした。"緋の眼"――その言葉を聞くと思い出す。あの少年を。自分が逃がしたあの少年の事を。今思えばあれは旅団への裏切り行為だったか。否、たとえあれが裏切り行為であったとしても彼等はあれくらいでは自分を責めはしないだろう。そっと自分の右耳に着けている薔薇のピアスへと触れる。










「……クルタ族の持つ瞳の事よね」


「ああ」










そうか、そうだったのか。思い出した、この模様。これは、自分達が昔手に掛けた民族の模様。殺した人々の服に同じ様な模様が書かれてあった。そこまで思ってはっとした。自分が助けたあの少年は金髪だった。そして今隣を走っている彼も同じ、金髪。










「…私は、クルタ族だ」










やはり、クルタ族。ならばこの目の前の人物は自分が助けた少年なのか。否、よく考えてみろ。金髪の少年など、この世界の何処にでもいる。もしかしたらあの少年以外にもクルタ族の生き残りはいるのかもしれない。寧ろ、そっちの方が可能性的には高い。それよりも気になるのは何故クルタ族がハンター試験などを受けているかだ。もしも自分がクルタ族だと知られれば、彼等特有の緋の眼を狙って襲われるかもしれない。ましてや、これはハンター試験。受験者達の中にはそういった人体収集が趣味の奴がいるかもしれない。あるいは、クロロの様な珍しい物を集めるのが好きだという人間がいるかもしれない。それなのに、そんな危険なリスクを背負ってまでどうしてハンター試験を受けるのか。










「…そう、だったんだ。ねえクラピカ、もう一個聞いていい?」


「何だ?」


「どうしてハンター試験を受けたの?」


「そういうは何故受けたのだ?」










質問を質問で返された。まさかそう返ってくるとは。仕事が少しは楽になるように、なんて口が裂けても言えない。そんな事を言えば自分の正体を自ら明かす事になりかねない。出来ればこの試験では自分の正体は気付かれたくはない。やはり何もしようとはしていないのに警戒されるのは不愉快だ。ましてや情報屋は極悪非道の夜叉。正体を明かせば誰もが警戒するだろう。若干名を除いて。










「えーっと…好奇心……っていうか自分の力量が知りたかったの。ハンター試験は《超難関だ》って聞いた事があったから」










なんて、嘘に決まってる。自分の今の力量くらい自分が一番解っているつもりだ。この試験を受けに来ている者達を瞬殺するくらいの実力を自分は持っている。やはり若干名を除いての話だが。










「(ヒソカとイルミは瞬殺ってわけにはいかなさそうだし…)」










悔しいが自分にはあの二人を瞬殺する程の力は無い。だからと言って彼等に瞬殺されるような実力でもない。伊達に幻影旅団という集団と共に行動しているわけではない。そして長い間、夜叉と呼ばれているだけの事はあると思いたい。










「で、クラピカは?


「私は……」










何となく気付いてきてはいるが、そうでなければいいと思ってしまう。自分の考えている彼の試験志願が当たれば、クラピカとは敵同士だ。もしあの少年がクラピカだとしたら、敵対はしたくない。所詮はただの自分の我侭だ。










「同胞の瞳の奪還と、幻影旅団への復讐の為だ」










やはり、か。これで決定だ。自分達は敵同士。憎む者と憎まれる者。クラピカは自分が旅団の一員だと知ったらどういう反応をするだろう。直に殺そうとするだろうか。もしそんな事になっても返り討ちが関の山だ。今の彼は念も知らないどちらかといえば一般人に近い人間だ。そんな彼が自分に勝つ事は、先ず有り得ないだろう。










「…仇をとるつもり?」


「ああ」


「相手はあの幻影旅団よ。無理だとか思わないの?」


「思わないな」










いつかクラピカとは対立する日が来るだろう。もしかしたらそう遠くはない未来にそれは起こるかもしれない。そしたら、容赦はしない。自分の仲間を傷つけようなんて思ってる奴を放っておく程自分は心の狭い人間ではない。もしかすると旅団の皆にとってはありがた迷惑かもしれないが、黙って見ている事は出来ない。私は多分、何の躊躇いもなくクラピカを亡き者とするだろう。大切な人に害を及ぼす者はどんな奴であろうと容赦はしない。










「そろそろ戻るとするか。どうなっているのか気になるしな。はどうするのだ?」


「私も戻るよ」










来るなら来なさい。貴方が私の仲間に刃を向けた瞬間から、私達は敵同士。貴方を亡き者としてあげる。











BACK-NEXT

08.04.09 修正完了